2020年5月9日土曜日

夜の谷を行く



60歳を遠に超えた、主人公の啓子は、目立たないように、年金と貯蓄

で、細々と暮らしていました。

誰とも諍いせずひっそりと世捨て人のように、毎日ジム通いと図書館通

いをして。

でも新聞の記事を読んでから今までの生活が変化していくのです。

それは元赤軍派リーダー永田洋子の獄中死。

その事件から40年以上経って改めて過去と向き合わなければならなく

なります

姪っ子の結婚、昔の同士からの電話、次々に啓子の過去があからさまに

なっていき、どんどん読み続けざるを得なくなります。

一気読みでした。

さすが桐生夏生さん。

あの凄惨な事件は私も記憶があります、主人公と同じ世代ですもん。

あの頃の一部の若者は国家権力に不満を持ち、何かというとデモをし、

破壊に突っ走っていました、ものすごいエネルギーで、それが正しいか

何が正しいのかもわからないまま。

そして破滅へと行き着く先が、総括という名のリンチ殺人。

その死体を埋める途中にアジトから逃亡し、そこで警察に捕まり、5年

半の牢獄生活のの後、社会に出たものの、両親はストレスから早くに亡

くなり、親類縁者からも断絶。

仕方のないことだけど、一切過去を捨てて暮らしていかなけれはならな

い辛さ、親の死に目にも会えず、獄中で生んだ子供にも会えず。

そんな事件の中にいた今まで明らかにされなかった女性たちの存在。

さすが女流作家さん。

永田洋子の判決文も、「女性ならではの執拗さ、底意地の悪さ、冷酷

な加虐趣味」なんて言われたことに対する、こだわりも見れます。

まだまだ男社会だったのです。

事件に関わった男性達も外国に逃亡したたままや、飲み屋さんしてる人

もいて、割と元赤軍闘士としておめおめと生きながらえてる。

獄中にいて、国家権力によって、生かされている矛盾。

中には自殺した人もいるけどね。

これは読後色々調べて知ったことなんですけど。

読むのが辛くなるところもあったけど、最後の最後で、女として母とし

て、嬉しいサプライズがあったのは、せめてもの救いでした。






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